メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

西村あさひのリーガル・アウトルック

Huawei、 ZTEなど中国5企業排除の米政府の新ルールで日本企業への影響は

中島 和穂(なかじま・かずほ)

2019年米国国防授権法に基づく米国政府の調達ルール改正と日本企業への影響

弁護士・NY州弁護士
中島 和穂

拡大中島 和穂(なかじま・かずほ)
 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、三井物産株式会社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。

 米国は、中国との政治経済的な対立を背景として、輸入関税の引上げ、制裁法違反を理由とする中国企業の摘発、米国原産品目の中国への輸出禁止拡大、米国内の情報通信技術やサービスのサプライチェーンに関する民間取引への介入権限を付与する大統領令制定を始めとする様々な法的措置を講じているが、その一つに、米国政府調達から中国企業の通信機器や映像監視機器などを締め出す連邦調達規則の改正がある。この改正は、米国政府に中国企業の機器やサービスを調達することを禁じるだけでなく、米国政府と契約する企業にもそれらの機器やサービスを使用しないことを求めるものであり、名指しされた中国企業は勿論、サプライチェーンに含まれる日本企業へも大きな影響が及ぶと指摘されている。本稿ではこの調達ルール改正と日本企業に与える影響を解説する。

 1. 改正された米国政府の調達ルールの概要

 米国連邦議会は、2018年8月、2019年度国防授権法(National Defense Authorization Act、略してNDAA)を制定したが、同法889条は、対象となる中国企業5社(Huawei(華為技術)、ZTE(中興通訊)、Hytera(海能達通信)、Hikvision(杭州海康威視数字技術)及びDahua(浙江大華技術)の5社)の通信・監視関連の機器・サービス(以下「排除対象機器・サービス」という。その詳細は後述)の米国政府調達からの排除を定めている。

 即ち、同法889条は、概要、米国政府機関に対する、①排除対象機器・サービスの調達禁止(以下「調達禁止ルール」という)、及び②排除対象機器・サービスを使用する会社との契約締結禁止(以下「使用者との契約禁止ルール」という)という2つの部分から構成される。前者は、2019年8月13日に既に施行されており、後者は2020年8月13日に施行される。

 このうち、使用者との契約禁止ルールは、米国政府が相手方から排除対象機器・サービスを調達しない取引であっても、その相手方が排除対象機器・サービスを使用する場合には、米国政府に対して、当該相手方との契約締結を禁止するものである。このルールは、米国政府案件を受注し又は受注を目指す企業(以下「政府案件受注企業」という)のみならず、政府案件受注企業に機器やサービスを提供する企業にも影響が生じ得るものである。また、その影響は、政府案件そのものに関与する下請企業だけでなく、政府案件以外の目的で政府案件受注企業と取引する企業にも影響が生じ得るため、十分な注意が必要である。日本企業の中は、自らが政府案件受注企業である企業や政府案件受注企業との取引関係がある企業があるが、その一方で、それら企業が中国企業5社と取引していることもある。その場合、政府案件の獲得や政府案件受注企業との取引の維持と、中国企業との取引関係の維持のいずれかを選択しなければならない状況に追い込まれるおそれがある。以下、このNDAAのルールの詳細を解説する。

 2. 政府調達から排除される対象機器・サービスとは

 排除対象機器・サービスは、以下のとおりである。

  1.  Huawei(華為技術)若しくはZTE(中興通訊)又はそれらの子会社・関連会社によって製造される通信機器
  2.  Hytera(海能達通信)、Hikvision(杭州海康威視数字技術)若しくはDahua(浙江大華技術)又はそれらの子会社・関連会社によって製造される映像監視・通信機器(但し、公共安全、政府施設の警備、重要インフラの物理的な警備又は他の国家安全保障を目的とするもの)
  3.  上記1.や2.の会社が提供する、又は、上記1.や2.の機器を使った通信又は映像監視サービス
  4.  国防長官が、国家情報長官又は連邦捜査局(FBI)長官と協議の上、中国政府によって所有、支配又はその他の関連があると合理的に考える法人により製造又は提供される通信若しくは映像監視機器又は通信若しくは映像監視サービス

 このうち、上記1.や2.は通信・映像監視「機器」であり、上記3.は通信・映像監視「サービス」を対象とする。また、中国企業5社のみならず、その子会社や関連会社も対象とされている。また、上記4.によれば、今後中国企業5社以外にも対象企業が追加される可能性がある。上記1.から4.までが「排除対象機器・サービス」とされたのは、これらの通信・映像監視機器やサービスが、政府案件の対象製品や役務に組み込まれたり、政府案件受注企業のシステムに組み込まれることで、政府案件に関する情報が中国企業を通じて中国政府に伝達されることを防止するためであると思われる。

 3. 調達禁止ルール及び使用者との契約禁止ルールの具体的内容とは

 NDAA889条に基づく政府機関に対する2つの禁止ルールの具体的な内容は、以下のとおりである。

  1.  調達禁止ルール
     排除対象機器・サービスを以下のいずれかとして用いる機器、システム又はサービスを、調達、獲得又は調達したり、調達・獲得契約の延長又は更新することの禁止
     (a) システムの重要な若しくは必須の構成要素 (substantial or essential component of system)
     又は
     (b) システムの一部の重要な技術 (critical technology as part of any system)
  2.  使用者との契約禁止ルール
     排除対象機器・サービスを、以下のいずれかとして用いる機器、システム又はサービスを使用する法人と契約を締結、延長、更新することの禁止
     (a) システムの重要な若しくは必須の構成要素
     又は
     (b) システムの一部の重要な技術

 いずれの禁止ルールも、排除対象機器・サービスが、政府調達対象に含まれていたり、政府案件受注企業が使用すれば一律に禁止されるわけではなく、排除対象機器・サービスが「システムの重要な若しくは必須の構成要素」又は「システムの一部の重要な技術」である場合に適用が限定されている。
 この「重要な若しくは必須の構成要素」とは、「機器、システム又はサービスの適切な機能又は性能に必要な構成要素」を意味する。つまり、政府調達対象となる製品・サービスや政府案件受注企業が使用する製品・サービスの機能や性能における排除対象機器・サービスの必要性が基準となっている。
 他方、「重要な技術」とは、米国輸出規制で規制されるものに加えて、2019年国防授権法に基づいて米国輸出規制がされる予定の新興技術及び基盤的技術も含まれると定められており、排除対象機器・サービスの技術の機微性の高さが基準とされている。
 また、これらの禁止ルールは、新規の契約のみならず、既に締結された契約の延長や更新にも適用される。
 さらに、米国政府が2020年7月13日に公表した暫定規則案では、使用者との契約禁止ルールで使用が禁止される主体は、政府案件受注企業、つまり、政府と契約を締結する法人のみであり、政府案件(受注企業)の下請業者は含まれないことが明らかにされている。但し、米国政府は、同規則案の中で、2021年8月13日から、政府案件受注企業のみならず、その関連会社、親会社又は子会社も対象に含め、政府案件受注企業の属する企業グループ全体に対して排除対象機器・サービスの使用を禁止する可能性を示唆している。

 4. 二つの禁止ルールの例外

 上述した2つの禁止ルールには、以下の2つの例外が設けられている。

  1.  政府機関が、バックホール(backhaul)、ローミング(roaming)、相互接続手配(interconnection arrangements)など、第三者の施設と接続するサービスを提供する法人と締結することは禁止されない。
  2.  ユーザデータトラフィックを特定の経路を通過させたり(route)、経路を変更したり(redirect)できない通信機器や、当該通信機器が送信又は取り扱うユーザーデータ・パケットを可視化(visibility)できない通信機器は、禁止の対象としない。

 上記1.の接続サービスの例外は政府への提供を認めるものであり、政府案件受注企業への提供を認めるものではない。つまり、政府が上記接続サービスの提供を受ける場合、排除対象機器・サービスが含まれていても、その提供は禁止しないというものであり、政府案件受注企業が上記接続サービスの提供を受ける場合、排除対象機器・サービスが含まれていても、政府はその政府案件受注企業と契約できるという例外を認めたものではない。
 また、上記例外とは別に、前述した2つの禁止ルールに抵触する場合の免除(waiver)を受ける方法が認められているが、当該免除を受けるためには、以下のように非常に厳しい要件を充足することが求められる上に、免除を認めるか否かは米国政府の各機関の裁量となる。

  1.  免除は2021年8月13日(調達禁止ルールの場合)又は2022年8月13日(使用者との契約禁止ルールの場合)までで、かつ、1回限り
  2.  遵守するために追加的時間が必要となることについてのやむを得ない事由を示すことが必要
  3.  排除対象機器・サービスの存在に関する十分且つ完全な配置を示すことが必要
  4.  排除対象機器・サービスを主体のシステムから排除するための段階的プランを示すことが必要

 5. 主契約者による米国政府に対する表明

 政府案件受注企業は、これらの禁止ルールに関して、以下の二つの事項に該当するか否かを米国政府に表明しなければならない。

  1. 「政府案件に関する契約の履行において、政府に対して排除対象機器・サービスを提供しない」
  2. 「合理的な調査(a reasonable inquiry)を実施した結果、排除対象機器・サービスを使用しておらず、排除対象機器・サービスを使用する機器、システム又は役務も使用していない」

 この表明は、上記禁止ルールとは異なり、「重要な若しくは必須の構成要素」や「重要な技術」という限定が付されていない。つまり、上記禁止ルールに抵触するため場合(言い換えれば、政府と契約するには免除が必要な場合)は勿論、排除対象機器・サービスの必要性・機微性が低いため、上記禁止ルールには該当しないときも、政府案件受注企業が排除対象機器・サービスを政府に提供したり、自ら使用する場合には、排除対象機器・サービスの製造主体、内容などの詳細を政府に説明しなければならない。政府案件受注企業は、表明に関する政府とのやり取りの過程で、「重要な若しくは必須の構成要素」や「重要な技術」への該当性についても説明しなければならないことが予想される。表明に誤りがあれば、政府との契約違反やFalse Claim Actに基づく制裁金等の責任を負うことになる。
 また、使用者との契約禁止ルールに関する表明について、米国政府は、政府案件受注企業に対して合理的な調査の実施を求めている。この合理的な調査とは、「政府案件受注企業によって使用される排除対象機器・サービスの製造者又は提供者の主体に関して、政府案件受注企業が有する情報(主に書類や他の記録)を明らかにすることを目的とする調査」というと定義されている。但し、内部や第三者による監査まで行う必要はないとされている。ここでいう「監査」の意味は必ずしも明らかではないが、「リーバースエンジニアリング」の必要性を軽減するものという見解もある。上記合理的な調査には、政府案件受注企業が政府との契約を締結しており、下請業者や供給業者の排除対象機器・サービスを使用する場合には、その使用が上記政府との契約の履行に用いられるか否かにかかわらず、下請業者や供給業者との関係を調査することも含まれるものとされている。
 2つの禁止ルールのうち、調達禁止ルールについては、政府案件受注企業は、政府案件に絞った上で、排除対象機器・サービスが含まれているか否かを調査すれば足りるが、他方、使用者との契約禁止ルールの場合には、政府案件以外の業務での使用も調査しなければならない。この調査の範囲は広く、また、禁止される「使用」の意味は定義されていないため、判断が難しい。例えば、社用のスマートフォンとして、Huawei(華為技術)製のスマートフォンを使用することも「使用」に含まれる可能性がある。

 6. 日本企業への影響

 日本企業は、自らが政府案件受注企業である場合には、排除対象機器・サービスの有無の確認が必要となることは勿論であるが、政府案件受注企業と取引関係にあるだけでも、それら企業から情報提供が求められることが予想される。求められる情報は、その企業向けの取引に排除対象機器・サービスが含まれているか否かや、含まれている場合には、政府案件受注企業が性能や機能の必要性や機微度を判断できる情報となるであろう。
 このような問い合わせを受けた日本企業としても、サプライチェーンが複雑化しているため、自らの製品やサービスに排除対象機器・サービスが含まれているか否かの判断や、必要性や機微度の判断に関する情報を収集することは困難なケースが予想される。
 また、政府案件の場合は、政府と政府案件受注企業との契約の条件、政府案件受注企業と下請企業との契約の条件などが連動する形で定められており、今回新たに施行される使用者との契約禁止ルールを反映するための契約条件の変更は比較的容易かも知れない。
 しかしながら、使用者との契約禁止ルールは、政府向け案件ではない取引にも影響を与えるものであるため、調査範囲が広くなる。政府案件受注企業の中には、排除対象機器・サービスを使用する企業との取引は中断又は終了すると判断するところが現れても不思議ではなく、契約の中断や終了を巡って、企業間での紛争が生じるおそれもある。

 さらに、上

この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

中島 和穂(なかじま・かずほ)

 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、大手商社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士。
 M&A、国際取引、規制対応、訴訟・紛争を中心とする企業法務全般を支援している。事業再生局面での官民ファンドによるM&A、証券会社と証券取引所間の巨額の損害賠償紛争、日本で初めての買収防衛策の導入、世界に拠点を有する企業間の統合、地政学的なリスクを抱える中東への進出案件、M&Aの価格調整に関する巨額の仲裁案件など、様々な論点が複雑に絡む案件の経験が豊富。
 近時は、安全保障、技術覇権やテロ対策に関する国際社会の関心の高まりを踏まえて、非米国企業にとっての米国の経済制裁や輸出・再輸出規制、及び、日本の輸出規制やマネーロンダリング規制に関する案件に多数関与している。

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。