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西村あさひのリーガル・アウトルック

薬剤師によるオンライン服薬指導の規制動向、コロナウイルス対策で特例

葛西 陽子(かさい・ようこ)

オンライン服薬指導を巡る近時の規制の動向について
 ~薬機法改正と新型コロナウイルス感染症拡大防止のための時限的・特例的措置

西村あさひ法律事務所
葛西 陽子

拡大葛西 陽子(かさい・ようこ)
 西村あさひ法律事務所パートナー弁護士
 2009年弁護士登録。2005年東京大学薬学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2016年スタンフォード大学ロースクール修了(LL.M. in Law, Science and Technology)。2016~2017年ニューヨークのCleary Gottlieb Steen & Hamilton LLPにて執務。
 薬剤師が直接患者と対面せず、スマートフォンやパソコンなどの情報通信機器を使って、ビデオ通話等で処方薬の服用の方法等を説明するいわゆるオンライン服薬指導については、国家戦略特区においてテレビ電話を用いた服薬指導の実証事業が行われる等、かねてより普及に向けた法整備が検討されてきた。
 その結果、2019年12月4日に公布された医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)(以下「2019年改正薬機法」という。)により、2020年9月1日から、一定の要件の下で、オンライン服薬指導が全国で実施可能となる。
 ところが、2019年改正薬機法の下でのオンライン服薬指導の解禁を待たずに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により急激に医療を取り巻く環境が変化し、2020年4月10日以降、新型コロナウイルス感染症対策としての時限的・特例的な措置として、オンライン服薬指導の実施が広く認められることとなった。このような措置を受けて、オンライン服薬指導の浸透が加速し、また、オンライン服薬指導用のアプリケーションの提供など薬剤師-患者間のコミュニケーション支援サービスへの新規参入も相次いでいる。
 本稿では、オンライン服薬指導に関する薬機法改正の経緯、新型コロナウイルス感染症対策としての時限的・特例的措置の内容を中心に、オンライン服薬指導を巡る近時の規制の動向を紹介する。

 1. オンライン服薬指導を巡る制度改正の経緯

 (1) 服薬指導の対面原則

 日本においては、薬機法上、処方箋により調剤された薬剤を販売又は授与する場合には、その適正な使用を確保するため、薬局開設者は、その薬局で販売又は授与に従事する薬剤師に、対面により、服薬指導(薬剤の適正な使用のための情報提供及び必要な薬学的知見に基づく指導)を行わせなければならないこととされている(薬機法第9条の3)。そのため、薬剤師が直接患者と対面しない、電話や情報通信機器を用いたオンライン服薬指導の実施はこれまで認められていなかった。

 (2) 国家戦略特区におけるオンライン服薬指導の実施

 2015年に閣議決定された「『日本再興戦略改訂』2015」において、遠隔診療のニーズに対応するため、医療機関や薬局といった医療資源が乏しい離島・へき地について、遠隔診療が行われた場合の例外として、国家戦略特区においては実証的にテレビ電話を活用した服薬指導を可能とするよう法的措置を講ずるとの方針が示されたことを受けて、医療イノベーションの推進などを目的とする国家戦略特別区域法(以下「国家戦略特区法」という。)が改正された。
 この国家戦略特区法の改正により、薬剤師による対面での服薬指導の特例として、国家戦略特区内では、離島、へき地に居住する者に対し、遠隔診療が行われ、対面での服薬指導が実施できない場合に限り、テレビ電話による服薬指導の実証事業が可能とされた(国家戦略特区法第20条の5)。これに基づいて、2016年9月以降、国家戦略特区として指定された愛知県、兵庫県養父市、福岡県福岡市において、オンライン服薬指導の実証事業が実施された。
 さらに、2019年9月30日に公布・施行された改正国家戦略特区法施行規則により、都市部においてもオンライン服薬指導の実証事業が可能となり(国家戦略特区法施行規則第31条第2号の新設)、2019年12月26日から、国家戦略特区の指定を受けた千葉県千葉市においてオンライン服薬指導の実証事業が行われている。

 (3) 2019年改正薬機法

 このような国家戦略特区法に基づくオンライン服薬指導の実証事業での検証結果を踏まえ、また、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムで行うオンライン診療について、2018年3月に、厚生労働省から「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「オンライン診療指針」という。)が発出され、安全で適切なオンライン診療の普及を目指す施策が開始されたこと等を受けて、服薬指導の対面原則を定める薬機法の規定の改正が検討された。
 その結果、2019年改正薬機法において、薬機法第9条の3における「対面」の定義を改正し、「映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することが可能な方法その他の方法により薬剤の適正な使用を確保することが可能であると認められる方法として厚生労働省令で定めるもの」を用いて服薬指導を行う場合についても、「対面」の範囲に含まれるものとされた(2019年改正薬機法第9条の3第1項)。これにより、薬機法に定める一定の要件の下で、薬剤師が、患者と直接対面せずに、テレビ電話等を用いて遠隔で服薬指導を行うことが可能となった。
 オンライン服薬指導の具体的な実施要件については、映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることが可能な方法であって、次の①から③の要件を満たすものと定められた(改正薬機法施行規則(令和2年厚生労働省令第52号)第15条の13第2項第1号乃至第3号)。

 ① 薬局開設者が、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、同一内容又はこれに準じる内容の処方箋により調剤された薬剤について、あらかじめ、対面により、薬剤を使用しようとする者に対して服薬指導を行わせている場合に行われること。

 ② 次に掲げる事項を定めた服薬指導計画に従って行われること。

  •  オンライン服薬指導で取り扱う薬剤の種類及びその授与の方法に関する事項
  •  オンライン服薬指導並びに対面による服薬指導の組合せに関する事項
  •  オンライン服薬指導を行うことができない場合に関する事項
  •  緊急時における処方箋を交付した医師又は歯科医師が勤務する病院又は診療所その他の関係医療機関との連絡体制及び対応の手順に関する事項
  •  その他オンライン服薬指導において必要な事項

 ③ 薬局開設者が、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、オンライン診療又は訪問診療において交付された処方箋により調剤された薬剤を販売又は授与させる場合に行われること。

 上記のとおり、2019年改正薬機法の下で実施可能となるオンライン服薬指導の対象薬剤は、オンライン診療又は訪問診療において交付された処方箋により調剤される薬剤に限定されており、患者-医師間の対面での診療において交付された処方箋により調剤される薬剤の場合にはオンライン服薬指導を実施することが認められていない点には留意を要する。

 2020年3月31日には、厚生労働省から、オンライン服薬指導の具体的な運用について、オンライン診療指針に定めるオンライン診療の運用との整合性を確保するという観点から、その解釈を明確化する通知が発出された(2020年3月31日付け厚生労働省医薬・生活衛生局長通知・薬生発0331第36号)(注1)。同通知には、オンライン服薬指導の実施において、原則として薬剤師は薬剤師であること、患者は患者本人であることの確認を相互に行うことや、情報セキュリティ及びプライバシー保護の観点からオンライン診療指針に示された内容と同等の通信環境を確保すること等の留意事項が示されている。オンライン服薬指導を実施しようとする調剤薬局のみならず、オンライン服薬指導用のシステムを提供しようとする事業者においても同通知に示された基準に準拠したシステム設計・開発が要求されることになる。

 なお、2019年改正薬機法によりオンライン服薬指導が実施可能となったことを受けて、2020年の診療報酬改定により、薬剤服用歴管理指導料「4」(43点)、在宅患者オンライン服薬指導料(57点)が新設され、保険薬局はオンライン服薬指導に対する保険診療報酬を請求することが可能となった。

 2. 新型コロナウイルス感染症対応のためのオンライン服薬指導に関する時限的・特例的措置

 上記のとおり、オンライン服薬指導は、2019年改正薬機法により、2020年9月1日の施行を待って全国的に解禁される予定であったが、新型コロナウイルス感染症の急激な感染拡大により、院内感染を含む感染防止のため、また、医療機関の受診が困難になりつつある状況に鑑みた非常時の対応として、電話や情報通信機器を用いたオンライン服薬指導の実施が時限的・特例的に認められることとなった。
 厚生労働省は、2020年4月10日、「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」と題する事務連絡(0410事務連絡)(注2)を発出して、新型コロナウイルス感染症の感染が収束するまでの間の時限的・特例的措置(0410対応)を示した。
 0410対応の下でのオンライン服薬指導は、全国すべての薬局において実施可能とされている。また、2019年改正薬機法ではオンライン服薬指導の実施要件とされている、患者と薬剤師の互いの映像を映しながら通話する機能は必須とされず、音声のみによる電話での服薬指導も可能とされた。さらに、服薬指導計画の策定も必須とされていない。
 具体的には、0410対応の下では、薬局における薬剤師が、患者、服薬状況等に関する情報を得た上で、オンライン服薬指導を適切に行うことが可能と判断した場合、かつ、次に掲げる条件を満たす場合には、オンライン服薬指導が実施可能とされている。

 ① 薬剤の配送に関わる事項を含む、オンライン服薬指導により生じ得る不利益のほか、配送及び服薬状況の把握等の手順について、薬剤師から患者に対して十分な情報を提供し、説明した上で、当該説明を行ったことについて記録すること。

 ② 薬剤師は、患者に初めて調剤した薬剤については、患者の服薬アドヒアランスの低下等を回避して薬剤の適正使用を確保するため、調剤する薬剤の性質や患者の状態等を踏まえ、以下の対応を行うこと。

  •  必要に応じ、事前に薬剤情報提供文書等を患者にファクシミリ等により送付してから服薬指導等を実施する。
  •  必要に応じ、薬剤の交付時に、再度服薬指導を行う。
  •  薬剤交付後の服用期間中に、服薬状況の把握や副作用の確認を実施する。
  •  服薬指導の過程で得られた患者の服薬状況等の必要な情報を処方した医師にフィードバックする。

 ③ オンライン服薬指導を行う過程で、対面による服薬指導が必要と判断される場合には、速やかに対面による服薬指導に切り替えること。

 ④ 患者のなりすまし防止の観点から、患者については被保険者証により受給資格を、薬剤師については顔写真付きの身分証明書により本人確認を互いに行う等の本人確認措置を講じること。

 0410対応の下でのオンライン服薬指導の実施は、新型コロナウイルス感染症の感染が収束するまでの間とされている。また、0410対応の実施要件については、原則として3か月毎に、感染拡大の状況や0410対応の実用性と実効性確保の観点、医療安全等の観点から改善のための検証を行うものとされている。

 2020年8月6日、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が継続する状況を踏まえて、0410対応をさらに3か月延長することを決定した。0410対応の下でのオンライン服薬指導の実施結果は、2019年改正薬機法の下での平時のオンライン服薬指導の具体的な実施要件その他遠隔医療における今後の対面規制の設計・見直しに影響するものと考えられる。

 3. 電子処方箋との連携と円滑な運用

 オンライン服薬指導の実施・普及には、医療機関と薬局間の薬剤の処方に関する情報共有を効率化し、患者自らが服薬歴等の情報をPHR(Personal Health Record)として電子的に管理・閲覧できる電子処方箋の仕組みが不可欠である。もっとも、0410対応の下でも、処方箋の取扱いについては、医師が紙媒体で発行する処方箋を電子メールやファクシミリで調剤薬局に送付するという方法が認められているにとどまる。
 電子処方箋については、現在、厚生労働省の「健康・医療・介護情報利活用検討会」において、保健医療情報を全国の医療機関や患者本人が電子的に把握する仕組みの導入・整備が検討されている。その施策の一つとして、マイナンバーカードのICチップに記録されている公的個人認証機能を使って被保険者資格の確認を行うオンライン資格確認の基盤整備とオンライン資格確認の仕組みを活用した電子処方箋プラットフォームの導入が検討されており、2022年夏からの運用開始が目指されている。電子処方箋の利活用促進のための今後の施策が注目される。

 4. 結び

 2020年6月22日に公表された政府の規制改革推進会議のデジタル時代の規制・制度についての基本的考え方と改革の方向性を整理した意見書(注3)においても、オンライン服薬指導について、対面による書面の受け渡しを義務付ける現行の対面規制の必要性の再検証・見直しの方針が示された。また、2020年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針2020)(注4)においても、オンライン診療について、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取りまでオンラインで完結する仕組みを構築するとの方針が示されたところである。
 今般の2019年改正薬機法においては、オンライン服薬指導の解禁の他にも、薬剤師が、薬局での調剤時のみならず、服薬期間中の患者フォローアップ(継続的かつ的確に、患者の服薬状況を把握し、薬学的知見に基づく指導を行う)を実

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葛西 陽子(かさい・ようこ)

 西村あさひ法律事務所パートナー弁護士
 2009年弁護士登録。2005年東京大学薬学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2016年スタンフォード大学ロースクール修了(LL.M. in Law, Science and Technology)。2016~2017年ニューヨークのCleary Gottlieb Steen & Hamilton LLPにて執務。
 医薬品・バイオテクノロジー等のライフサイエンス分野における知財ライセンス取引、戦略的提携、共同研究・開発、M&A取引等の様々な種類の企業間取引について、知的財産権法や薬事・医事関連規制に関するアドバイスを行う。

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