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西村あさひのリーガル・アウトルック

買収提案を受けた企業の「特別委員会」実務、M&A指針後の最新動向

田原 吏(たはら・つかさ)

公正なM&A指針を踏まえたMBO等における特別委員会の実務動向

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 田原 吏

拡大田原 吏(たはら・つかさ)
 2004年、京都大学法学部卒業。2006年、京都大学法科大学院修了。2007年、第二東京弁護士会登録。2016年、University of Virginia, School of Law 修了(LL.M.)。2014~2015年、京都大学法科大学院の非常勤講師を務める。2016~2017年、Debevoise & Plimpton LLP (ニューヨーク) 出向。

 1. はじめに

 経済産業省は、2007年9月4日に策定された「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」という)を改訂し、2019年6月28日、「公正なM&Aの在り方に関する指針 - 企業価値の向上と株主利益の確保に向けて -」(以下「M&A指針」という)を公表した。

 M&A指針は、MBO指針策定後の10年以上にわたるM&A実務の蓄積や環境変化等を踏まえ、MBO及び支配株主による従属会社の買収(以下「MBO等」と総称する)を中心に、公正なM&Aの在り方について、原則論を含めた考え方の整理と、それに基づいた実務上の対応を提言するものである。

 このようなM&A指針を踏まえ、MBO等における実務上の対応や開示のプラクティスにも様々な変化が見られてきたが、2020年6月30日、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)は、2019年6月28日から2020年6月30日までに公表された26件の取引(MBO:10件、支配株主による従属会社の買収:16件)を対象に、M&A指針を踏まえた実務対応に関する開示状況の集計結果を公表した。

 M&A指針の内容は多岐にわたるが、本稿では、その中でも公正性担保措置の一つとして重要な位置づけを与えられており、且つ、上記の東証の集計結果においてもM&A指針策定後の変化が指摘されている、特別委員会(独立委員会、第三者委員会等と呼ばれることもある)を巡る実務の最新動向について紹介したい。

 2. 特別委員会の位置付け ~ 「第三者委員会」から「特別委員会」へ

 従来から、MBO等においては、構造的な利益相反や情報の非対称性の問題が存在することから、独立性を有する委員で構成される特別委員会が設置され、対象会社の取締役はこのような委員会の答申を最大限尊重するというアレンジメントがなされるのが一般的であった。

 M&A指針においては、このような特別委員会について、M&Aの取引条件の形成過程で企業価値の向上ないし一般株主利益の確保の観点が適切に反映されないおそれがある場合に、本来取締役に期待される役割を補完し又は代替する独立した主体として任意に設置される合議体と位置付けられている。また、特別委員会は、買収者及び対象会社・一般株主に対して中立の第三者ではなく、対象会社及び一般株主の利益を図る立場に立って検討や判断を行うことが期待される旨述べられている。ちなみに、MBO指針においては「第三者委員会」という表現が用いられていたが、M&A指針においては、特別委員会は中立の第三者的な立場に立つのではなく、対象会社及び一般株主の利益を図る立場に立つという点を踏まえて、「特別委員会」という表現に変更されている(M&A指針3.2.1)。

 実務上も、MBO等の文脈においては特別委員会という表現が一般的になってきているものと思われるが、この点は、単なる呼称の問題にとどまらず、以下で紹介する特別委員会の構成や権限に関するM&A指針における具体的な提言内容にも影響しているものと考えられる。

 3. 特別委員会の構成 ~ 社外取締役の重視

 上記のような特別委員会の位置づけを踏まえて、M&A指針では、特別委員会のあるべき構成について、「独立性」と「適格性」の2つの観点から、紙幅を割いて比較的詳細に述べられている。

 まず、「独立性」については、①買収者からの独立性と、②当該M&Aの成否からの独立性(典型的には、当該M&Aの成立により委員が成功報酬を受領する場合が、独立性に疑義を生じさせる例とされている)とが求められており、特別委員会は、社外取締役、社外監査役又は社外有識者で構成されることが望ましいと述べられている(M&A指針3.2.4.2.A)。

 さらに注目される点は、M&A指針においては、これらの社外取締役、社外監査役又は社外有識者のそれぞれについて、「適格性」の観点からの優劣が具体的に明示されている点である。

 即ち、まず、社外取締役が、①株主総会において選任され、会社に対して法律上義務と責任を負うこと、②取締役会の構成員として経営判断に直接関与することが本来的に予定されていること、③対象会社の事業にも一定の知見を有していることなどから、委員として最も適任であると述べられている(さらには、特別委員会は、委員として最も適任である社外取締役のみで構成するのが最も望ましいとも述べられている)。次に、社外監査役については、本来的に経営判断に直接関与することが予定された者ではないものの、取締役会への出席・意見陳述義務等を通じて、間接的な形で経営に関与することなどから、取締役会に占める社外取締役が少数にとどまる現状においては、社外取締役を補完するものとしての適格性を有すると位置づけられている。最後に、社外有識者は、株主総会において株主の付託を受けて選任されているわけではなく、社外役員に比べて会社や株主に対する責任関係も不明確であるものの、M&Aに関する専門性を補うために、社外役員に加えて委員として選任することは否定されないとの位置づけにとどまっている(M&A指針3.2.4.2.B)。

 この点、従来の実務では、そもそも十分な社外役員が確保されていない会社が多かったことに加えて、M&A実務に精通していることといった専門性の観点から、弁護士や公認会計士等の社外有識者が独立委員会の構成員となる例が多くみられた。それに対して、M&A指針においては、M&Aに関する専門性はアドバイザー等から専門的助言を得ることなどによって補うことも可能であると指摘されており、特別委員会の構成員として、M&Aに関する専門性や能力よりも、会社に対して負う義務や責任が重視されているように思われる。

 M&A指針の策定後も、最適な特別委員会の構成員については、社外役員の人数・構成、社外有識者の候補、当該M&Aの規模や内容によって個別具体的に判断されているものと考えられるが、M&A指針が、特別委員会の構成員の適格性について上記のような明解な位置づけを行っていることを踏まえると、例えば、十分な数の社外取締役が存在するにもかかわらず、敢えて社外監査役や社外有識者を特別委員会の構成員とする場合には、その合理性について相応の開示・説明が求められることになると考えられる(典型例としては、一部の社外取締役が当該M&A取引に利害関係を有していること等が考えられよう)。

 ちなみに、東証による特別委員会の構成に関する直近1年間の実務の集計結果では、①26件中10件において社外役員のみで構成、②15件において社外役員及び社外有識者で構成、③1件において社外有識者のみで構成、という結果となっている。現状では、十分な数の社外取締役が確保されている企業が必ずしも多いわけではないため、社外有識者が特別委員会の構成員に含まれている例も相当数に上るが、今後は社外取締役の比率の向上なども踏まえて、①のケースがさらに増えていくことになるのではないかと予想される。

 4. 特別委員会の権限 ~ 交渉過程への実質的関与

 M&A指針においては、取引条件が妥当でないと特別委員会が判断した場合には当該M&Aに賛同しないことを取締役会において予め決定した上で、①特別委員会が取引条件の交渉を行う権限の付与を受け、自ら直接交渉を行うこと、又は、②交渉自体は対象会社が行うが、特別委員会は、例えば交渉について事前に方針を確認し、適時にその状況の報告を受け、重要な局面で意見を述べ、指示や要請を行うこと等により、取引条件に関する交渉過程に実質的に影響を与え得る状況を確保するのが望ましいと述べられている(M&A指針3.2.4.4)。以下、これについて詳述する。

 まず、取引条件が妥当でないと特別委員会が判断した場合には当該M&Aに賛同しないことを取締役会において予め決定するという点は、特別委員会による「取引拒絶権限」(Right to say No)とも呼ばれる。この点、従来から対象会社の取締役は特別委員会の答申を最大限尊重するものとされており、かつ、答申の内容に反してM&Aを実行することは現実的には困難であるため、特別委員会にこのような権限を付与することが実務に大きな影響を及ぼすものではないとも考えられるが、東証の集計結果においては、26件中14件で特別委員会にこのような権限が付されている旨が開示されているとされている。

 また、特別委員会に直接の交渉権限まで付与するか否かについては、対象会社の取締役会及び特別委員会の構成、当該M&A取引における利益相反性の強弱その他の事情に照らして判断されるべきであるが、従前の実務においては、特別委員会が取引条件の交渉にまで直接関与する事案は少なかったものと考えられる。この点、東証の集計結果においては、①23件中6件において特別委員会に取引条件の交渉権限を付与している旨、及び②残りの17件において特別委員会が取引条件の交渉過程に実質的に関与している旨が開示されており、現時点では、交渉権限を付与する例が多数を占めるにまでは至っていないものの、それなりの割合に増加してきているということはできると思われる。

 なお、特別委員会に直接の交渉権限を付与する場合には、対象会社の取締役との役割分担などの具体的な交渉プロセスの整理が必要であるし、特別委員会の役割や権能が拡大するため、後述する特別委員会によるアドバイザーの起用や特別委員会の報酬等にも影響が生じると考えられ、今後の実務の蓄積が待たれるところである。

 5. その他の諸論点

 (1) 特別委員会の設置時期 ~ 可及的速やかな設置

 M&A指針では、特別委員会の設置時期について、特別委員会に取引条件の形成過程全般にわたってその公正性を担保する機能を果たさせる等の観点から、対象会社が買収者から買収提案を受けた場合には、可及的速やかに、特別委員会を設置することが望ましいと述べられている(M&A指針3.2.4.1)。
 また、東証の集計結果においても、大半(26件中24件)が買収提案から1か月以内に特別委員会が設定されている旨公表されている。

 (2) 特別委員会によるアドバイザーの起用 ~ 独自のアドバイザーの要否

 M&A指針においては、特別委員会の委員自身がM&A手続の公正性や企業価値評価に関する専門的知見を十分に有していないことも少なくないと考えられることから、特別委員会が信頼して専門的助言を求めることができるアドバイザー等が存在していることが望ましいと述べられている。そして、アドバイザー起用の具体的な方法に関しては、①特別委員会が自らのアドバイザーを選任することが有益であるが、②特別委員会として対象会社の取締役が起用したアドバイザーを信頼して専門的助言を求めることができると判断した場合には、当該アドバイザーを利用することも否定されるべきとはいえないとされている。但し、②の場合には、対象会社のアドバイザーが特別委員会に対して一般株主の利益よりも買収者側の利益やM&Aの成立を優先した助言や情報提供を行う可能性について懸念が示されることもあるとした上で、特別委員会に対して、対象会社のアドバイザーを指名する権限やその選任についての承認権限を付与する等の工夫を講じることが望ましいと述べられている(M&A指針3.2.4.5)。
 この点、アドバイザーの起用には相応のコストが必要になり、事案の規模や内容によっては屋上屋を架すことにもなりかねないため、実際に特別委員会がアドバイザーを起用するか否かは具体的な案件毎の判断になると考えられるが、上記のようなM&A指針の指摘を踏まえると、少なくとも特別委員会に自らのアドバイザーを選任する権限を付与する例は、今後増えてくる可能性があると考えられる。
 ちなみに、東証の集計結果においては、①26件中9件で特別委員会に自らのアドバイザーを選任する権限が、②8件で対象会社のアドバイザーを利用する権限が、③3件でこれら両方の権限が付与されているとのことであり、まとめると、26件中12件で特別委員会に自らのアドバイザーを選任する権限が与えられているようである。

 (3) 特別委員会の報酬 ~ 職務に応じた報酬

 M&A指針においては、特別委員会に係る職務には通常の職務に比して相当程度の追加的な時間的・労力的コミットメントを要するため、役員報酬に委員としての職務の対価が含まれていない場合には、別途、委員としての職務に応じた報酬を支払うことが検討されるべきであると述べられている(M&A指針3.2.4.7)。
 これまでにも述べてきたとおり、M&A指針は、特別委員会の役割・職責を重視しているところ、一般的な社外取締役ないし社外監査役の役員報酬においては、そのような特別委員会に期待される役割・機能に伴う負担に見合った報酬までは含まれていない例も少なくないのではないかと考えられる。従って、上記のようなM&A指針における指摘を受けて、今後は特別委員会の委員に対して役員報酬とは別の報酬(日当等の形式が考えられよう)が支払われる例も増えてくるのではないかと予想される。もっとも、特別委員会の委員として受領する報酬についても、会社法上の報酬規制には服するとの解釈もあり得る点には注意が必要である。
 また、報酬額の定め方については、上記3.のとおり、M&Aの成立により特別委員会の委員が成功報酬を受領するアレンジメントが採用される場合には当該委員の独立性に疑義が生じ得るため、固定報酬又はタイムチャージ制等が一般的になるのではないかと考えられる。東証の集計結果においても、26件中17件で固定報酬又はタイムチャージ制である旨が開示されており(なお、直近の対象取引10件においては全て固定報酬又はタイムチャージ制であるとのことである)、成功報酬制であることを開示している例は存在しない。

 6. 今後の展望

 M&A指針は、MBOや支配株主による従属会社の買収における公正性担保措置として、特別委員会の意義を高く評価し、その基本的な機能や役割の位置づけを整理した上で、特別委員会に関する実務上の具体的な取扱いについて相当に詳細な提言を行っている。

 このようなM&A指針が実務にどのような影響をもたらすかが注目されていたが、これまで述べてきたとおり、東証が

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田原 吏(たはら・つかさ)

 2004年、京都大学法学部卒業。2006年、京都大学法科大学院修了。2007年、第二東京弁護士会登録。2016年、University of Virginia, School of Law 修了(LL.M.)。2014~2015年、京都大学法科大学院の非常勤講師を務める。2016~2017年、Debevoise & Plimpton LLP (ニューヨーク) 出向。
 主な論文・書籍に『M&A in Japan- Lexology』(共著、Globe Business Media Group、2016年)、『会社法実務相談』(共著、商事法務、2016年)、『Japan Chapter - The International Comparative Legal Guide to: Mergers & Acquisitions 2013』(共著、Global Legal Group、2013年)、『知的財産法概説<第5版>』(共著、弘文堂、2013年)、『移転価格税制のフロンティア』(共著、有斐閣、2011年)がある。

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