メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

西村あさひのリーガル・アウトルック

中国の新しい輸出管理制度の対象となる品目と行為、米国との比較

中国輸出管理法の概要解説及び米国輸出管理規則との対比 (上)

野村 高志(のむら・たかし)

中国輸出管理法の概要解説及び米国輸出管理規則との対比

西村あさひ法律事務所
 弁護士 野村 高志
 弁護士 淀川 詔子

拡大野村 高志(のむら・たかし)
 1988年、早稲田大学法学部卒業。1998年、弁護士登録(現:東京弁護士会)。2004~2005年、対外経済貿易大学(北京)留学。2012~2014年、東京理科大学大学院イノベーション研究科客員教授(中国知財戦略)。2014年から西村あさひ法律事務所の上海事務所代表。
拡大淀川 詔子(よどがわ・のりこ)
 2002年、東京大学法学部卒。2003年、司法修習を経て、第一東京弁護士会登録。同年10月、西村あさひ法律事務所入所。2007年、外務省経済局経済連携課課長補佐。2010年、ニューヨーク大学(LL.M.)を卒業し、世界貿易機関に勤務。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。同年、エネルギー憲章事務局法務官、2012年、同局法務顧問代理、2013年、同局法務顧問。2014年から2017年まで新日鐵住金株式会社(当時)法務部国際法務室勤務。
 激化する米中貿易摩擦を背景に、2020年10月17日、「輸出管理法」が中国全国人民代表大会常務委員会で可決・公布され、同年12月1日から施行されている。今後、「輸出管理法」は、中国の輸出管理法制度の「基本法」として、以前に公布・施行された「監視化学品管理条例」「核輸出管理条例」「軍用品輸出管理条例」「核両用品及び関係技術輸出管理条例」「ミサイル及び関係種目・技術輸出管理条例」及び「生物両用品及び関係設備・技術輸出管理条例」という六つの輸出管理に関する行政法規と共に輸出管理の法体系を構成する。

 「輸出管制法」は全5章・49条から成り、その運用は国務院及び中央軍事委員会の輸出管理担当部門(以下「国家輸出管理担当部門」という)が担う。輸出管理業務について「総体的国家安全観」を堅持することが強調されており(3条)、この総体的国家安全観は経済政策等も含んだ幅広い概念と理解されている。
 以下では、同法のポイントについて2回に分けて紹介する。併せて、2020年8月28日付けの「中国輸出禁止・制限技術目録」改正や、同年9月19日付けで公布された「信頼できないエンティティリスト規定」も紹介する。また、これらの中国法と、米国の輸出管理制度とを比較し、類似点・相違点を考察することとしたい。

 1  管理品目の範囲及び輸出管理行為の範囲

 「輸出管理法」における管理品目の範囲は、以下のようになっている。以下の管理品目には、品目に関連する技術資料等のデータも含まれる(2条)。

  • 両用品目(民需用途を有しながら、軍事用途を有し、又は軍事的潜在力の向上に寄与し、特に大量破壊兵器及びその運搬手段の設計、開発、生産又は使用に用いることができる貨物、技術及びサービス)
  • 軍需品(軍事目的に用いる装備、専用生産設備その他の関連する貨物、技術及びサービス)
  • 核(核原料、核設備、原子炉用非核原料及び関連する技術及びサービス)
  • その他の国家の安全及び利益の維持・保護、拡散防止等の国際義務の履行に関連する貨物、技術及びサービス等

 管理品目の輸出行為の範囲については、(i)管理品目の中国国内から国外への移転、(ⅱ)管理品目の国境通過、中継輸送、通過、再輸出、(ⅲ)保税区、輸出加工区等の税関特殊監督管理区域及び輸出監督管理倉庫、保税物流センター等の保税監督管理場所からの海外輸出、並びに(ⅳ)中国の公民、法人及び非法人組織から外国の組織及び個人への管理品目の提供を含む(2条、45条)。すなわち、通常の輸出のほか、「再輸出」及び「みなし輸出」という行為も輸出管理の対象となる。

 【米国の輸出管理制度との比較】
 ●所管法令
 米国の輸出管理制度は、対象品目により、以下のとおり所管の法令及び組織が異なる。

対象品目所管法令所管組織
原子力関連品目 1954年原子力法(Atomic Energy Act of 1954)に基づく規則 原子力規制委員会(Nuclear Regulatory Commission)
狭義の軍需品 国際武器取引規則(International Traffic in Arms Regulations) 国務省
軍民両用品目 輸出管理規則(Export Administration Regulations (EAR)) 商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security (BIS))


 以下では、上記の米国の輸出管理に関連する法令のうち、一般的な日本企業の事業に関連する頻度が最も高いと思われるEAR(輸出管理規則)を、上記の中国「輸出管理法」と比較し、米中の類似点・相違点を考察する。

 ● 規制対象の行為
 米国EARが規制対象とする行為は、輸出(export(みなし輸出も含む))、再輸出(re-export(みなし再輸出も含む))、国内移転(transfer (in-country))である。それぞれの行為は、以下のとおり定義されている。なお、中国「輸出管理法」により規制される行為との異同については、「輸出管理法」の運用が蓄積していないため未だ明確でない部分もあり、今後も精査が必要であるものの、現時点では、以下のように整理できると思われる。

 米国EAR上の定義中国「輸出管理法」との対比
輸出 米国の領域内から領域外への出荷(shipment or transmission)、その他(米国内において宇宙船を外国人に譲渡すること等)(EAR §734.13) 上記(i)(管理品目の中国国内から国外への移転)に相当
みなし輸出 米国内において、技術又はソースコードを外国人に開示又は提供すること(EAR §734.13(a)(2)) 上記(ⅳ)(中国の公民、法人及び非法人組織から外国の組織及び個人への管理品目の提供)と重複
  • EAR上のみなし輸出は「米国内」の行為のみ捕捉するが、中国の「輸出管理法」上のみなし輸出については、行為の地理的場所は限定されない
  • EAR上のみなし輸出は、対象が技術又はソースコードに限定されるが、中国の「輸出管理法」では、このように対象を限定する文言がない
再輸出 米国以外の国から、他の米国以外の国への出荷(shipment or transmission)、その他(米国以外の国において宇宙船を当該国以外の外国人に譲渡すること等)(EAR §734.14) 上記(ⅱ)(管理品目の国境通過、中継輸送、通過、再輸出)に相当
みなし再輸出 米国以外の国において、技術又はソースコードを、当該国以外の外国人に開示又は提供すること(EAR §734.14(a)(2)) 上記(ⅳ)(中国の公民、法人及び非法人組織から外国の組織及び個人への管理品目の提供)が中国国外での行為も捕捉することから、相手方が行為地の国以外の外国人である場合、左記に相当。ただし、このように上記(ⅳ)の行為地について制限がないことから、中国の「輸出管理法」上は、「みなし輸出」と異なる行為類型として明示的に「みなし再輸出」という概念は設けられていない
  • EAR上のみなし再輸出は、対象が技術又はソースコードに限定されるが、中国の「輸出管理法」では、上記(ⅳ)の行為類型につき、このように対象を限定する文言がない
国内移転 米国以外の国において、対象品目の最終用途又はエンドユーザーを変更すること(EAR §734.16) 中国「輸出管理法」16条1項に、外国エンドユーザーは、国家輸出管理担当部門の許可を経なければ、関連する管理品目の最終用途を無断で変更してはならず、又はいかなる第三者に対してもこれを譲渡してはならないことを承諾しなければならない、との規定がある


 ● 管理品目
 管理品目(EARは、itemという単語を物品、技術及びソフトウェアの総称として使用している)については、米国EARの下では、まず「subject to the EAR」という概念によりその外延が画されている。「subject to the EAR」となる品目(すなわち、EARの適用対象品目)は、①米国に所在する品目、②米国原産の品目、③外国原産であるが、米国の輸出管理に服する米国原産の品目を一定の態様で組み込んだ品目、④外国原産であるが、一定の要件を満たす米国原産の技術又はソフトウェアの直接産品である品目、及び⑤外国原産であるが、一定の要件を満たす米国原産の技術又はソフトウェアの直接産品である工場又はその主要構成部分により製造された品目である(EAR §734.3)。
 上記①から⑤までのいずれかに該当し、EARの適用対象となる品目は、更に、商務省管理品目リスト(Commerce Control List)掲載品目と、それ以外のEAR99と呼ばれる品目とに分かれる。前者の商務省管理品目リスト掲載品目の場合には、仕向地ごとに輸出許可の要否が細かく分かれる分、EAR99と比べて、輸出等の前により詳細な検討が必要である。他方、後者のEAR99の場合は、後述の一般禁止事項(General Prohibitions)に該当しない限り、許可申請は不要である。
 EAR適用対象品目の範囲及びそれに対するEARによる輸出管理(輸出許可要否の検討方法等)の詳細については、例えば、知的財産研究教育財団・知的財産研究所「『国際知財制度研究会』報告書(令和元年度)」第1章I.「輸出管理改革法による米国の輸出管理の対象拡大」(《https://www.jpo.go.jp/resources/report/takoku/trips_chousa_houkoku.html》にて閲覧可能)を参照されたい。

 以上を中国の「輸出管理法」と比較すると、同法においては、管理品目について、上記①から⑤までに相当するような、自国との一定の結び付きにより対象範囲を画する規定は設けられていない。今後、下位規則が制定され、EAR上の上記①から⑤までに相当する又はこれと類似する、適用対象となる品目の範囲に関する規定が設けられるか否か、引き続き注目していく必要がある。

 2  管理方法

 中国「輸出管理法」は、管理リスト及び管理統制名簿の制定、並びに輸出許可制度を主な管理方法として規定している。

 (1) 管理リスト

 国家輸出管理担当部門は、この法律並びに関係する法律及び行政法規の規定に従い、輸出管理政策に基づき、所定の手続に従い、関係部門とともに管理品目の輸出管理リストを制定及び調整し、かつ、遅滞なく公布するものとされている(9条1項)。また、輸出管理リスト以外の貨物、技術及びサービスについても、国家の安全及び利益を維持・保護し、拡散防止等の国際義務を履行する必要性に基づき、国務院の認可を経て、又は国務院及び中央軍事委員会の認可を経て、国家輸出管理担当部門は、2年を超えない期間内で「臨時管理」を実施し、かつ、これを公告することができるものとされている(9条2項)。
 そして、国家輸出管理担当部門は、関係部門とともに、関連する管理品目について、輸出を禁止し、又は特定の仕向国及び地域並びに特定の組織及び個人に対する輸出を禁止することができる(10条)。
 更に、管理リストに記載された管理品目及び臨時管理品目以外の貨物、技術及びサービスに、(i)国家の安全及び利益に危害を及ぼすリスク、(ⅱ)大量破壊兵器及びその積載・運送手段の設計、開発、生産又は使用に用いられるリスク、(ⅲ)テロリズムの目的に用いられるリスクが存在するおそれがある場合、輸出管理対象となる(12条3項)。

 なお、2020年8月28日、中国商務部は、「中国輸出禁止・制限技術目録」改正版を公布した。
 同目録は、「対外貿易法」「技術輸出入管理条例」に基づいて定められた規定である。改正後の「中国輸出禁止・制限技術目録」によれば、半導体、ロボット工学、ワクチン等が輸出禁止技術に追加されており、音声認識、音声合成技術、人口知能対話型インターフェース技術等のAI関連技術が輸出制限技術に追加された。
 このような輸出禁止・制限技術の範囲は、「輸出管理法」の管理対象の範囲とも重なっているため、今後、国家輸出管理担当部門から、既存の「監視化学品管理条例」、「核輸出管理条例」、「軍用品輸出管理条例」、「核両用品及び関係技術輸出管理条例」、「ミサイル及び関係種目・技術輸出管理条例」、「生物両用品及び関係設備・技術輸出管理条例」を改正・統合の上、新たな統一的管理リストとして「中国輸出禁止・制限技術目録」の改訂版が作成・公布される可能性があると思われる。

 また、輸出管理法の施行直後の2020年12月2日に、「商用暗号輸出管理リスト」が公布され、2021年1月1日から施行されている。これは、データ暗号化技術に関連する製品・技術の輸出入(注1)について許可制度を導入し、対象製品・技術のリストを発表したものであり、該当するICチップ等の輸出等には、審査、認可取得が必要となった。この「商用暗号輸出管理リスト」に掲載されている製品・技術も、「輸出管理法」上の管理品目に該当するものと思われる。さらに、2020年12月31日には「両用品及び技術輸出入許可証管理リスト」が公布され、2021年1月1日から施行されている。このリストには、核両用品、生物両用品等の輸出が制限される対象が記載され、上述の「商用暗号輸出管理リスト」も含められている。ただし、「輸出管理法」第4条には「統一的な輸出管理制度を実行し、管理リスト、名簿又は目録の制定、輸出許可の実施等の方式を通じて管理を行う」と規定されているものの、かかる統一的な管理リストは2021年1月13日現在、未公表である。

 【米国の輸出管理制度との比較】
 米国EARの下で、商務省管理品目リストには、ワッセナー・アレンジメントその他の国際合意に基づき各国が輸出管理の対象としている品目を中心に、幅広い品目が掲載されている。
 中国でも、上記のとおり、新たな統一的管理リストが作成・公布された場合には、その対象範囲が商務省管理品目リストと類似したものとなる可能性もあると思われる。

 (2) 中国の輸出許可制度

 管理品目の輸出において実施される許可制度について、以下のとおり規定されている。
 まず、輸出事業者は、上記(1)に記載された輸出管理を受ける貨物、技術及びサービスを輸出する場合に、国家輸出管理担当部門に対して許可を申請しなければならない(12条1項、2項)。
 これに対して、国家輸出管理担当部門は、(i)国家の安全及び利益、(ⅱ)国際的な義務及び対外的約束、(ⅲ)輸出類型、(ⅳ)管理品目のセンシティブレベル、(ⅴ)輸出仕向国又は地区、(ⅵ)エンドユーザー及び最終用途、(ⅶ)輸出事業者の信用記録、(ⅷ)法律又は行政法規所定のその他の要素を総合的に考慮し、輸出事業者の管理品目の輸出に係る申請について審査を行い、許可するか否かの決定をする(13条)。

 【米国の輸出管理制度との比較】
 ● 許可申請要件の対象
 EARの下では、商務省管理品目リスト掲載品目であっても、同リストに掲載されているという事実をもって、直ちに輸出等について許可申請が必要になるわけではない。
 具体的には、まず、Entity List登載者やエンバーゴ国への輸出等の一般禁止事項(General Prohibitions)に該当する場合は、必ず許可申請が必要である。他方、一般禁止事項に該当しない場合は、商務省管理品目リストに記載された規制理由と、輸出等の仕向地との組み合わせにより、許可申請の要否が決まるが(その要否は商務省カントリーチャート(Commerce Country Chart)で確認できる。)、許可申請が必要とされている場合でも、許可例外の適用により、最終的には許可申請が不要となるケースもある。
 また、EAR99については、原則として許可申請は不要であるが、上記一般禁止事項に該当する場合には許可申請が必要となる。
 なお、後述のとおり、以上の原則的枠組みに加え、中国、ロシア又はベネズエラが仕向地である場合には、軍事的最終用途又は軍事的エンドユーザーに向けた輸出等について追加的な許可申請要件が課されているため、これに該当しないか確認することも必要である。

 以上を中国の「輸出管理法」と比較すると、もし同法が、管理品目の輸出等について、仕向地等を問わず一律に許可申請が必要とし、かつ許可申請の必要性について例外を設けない形で運用されるならば、EARよりも「輸出管理法」の方が網羅的に許可申請要件をかける仕組みを定めているものと評価できる。

 ● 許可申請を審査する当局及び検討時の考慮要素
 米国EARの下で輸出等の許可申請を審査し、許可を発出するのは、原則として商務省の産業安全保障局であるが、国防総省、エネルギー省及び国務省にも、EARに基づき提出された許可申請を審査する権限がある(EAR §750.3(b)(1))。
 商務省産業安全保障局は、可能な限り、許可申請を他の省庁に回付することなく許可の発出又は許可申請の不承認を決定するが(EAR §750.3(a))、必要な場合には、他の米国政府当局に許可申請を回付することができると規定されている(EAR §750.3(b)(1))。商務省産業安全保障局は、許可申請を受けると、申請書及び添付資料を検証し、申請対象の品目そのもの及びその最終

この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

野村 高志(のむら・たかし)

 1988年、早稲田大学法学部卒業。1998年、弁護士登録(現:東京弁護士会)。2004~2005年、対外経済貿易大学(北京)留学。2012~2014年、東京理科大学大学院イノベーション研究科客員教授(中国知財戦略)。2014年から西村あさひ法律事務所の上海事務所代表。
 主な論文・書籍に『事例から学ぶ 中国知財紛争の効果的な戦い方』(日本知的財産協会、2019年)、『中国における債権回収』(全4回、共著、レクシスネクシス・ジャパン、2018-2019年)、『中国でビジネスを展開する企業に求められる中国ネットワーク安全法への対応』(共著、レクシスネクシス・ジャパン、2018年)、「アジア進出・撤退の労務」(共著、中央経済社、2017年)などがある。

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。